ムセキワ・チンゴーザ

(MUSEKIWA CHINGODZA)

1970年ムレワ地方のmwangara(ムワンガラ)村生まれ

トーテムはエランド

ムビラを先祖代々演奏してきた“チンゴーザ一族”の末裔
幼いころからショナの儀式でムビラを演奏し、
青年期にはジンバブエの名門・プリンスエドワード校でムビラを教える

For English Interview (英語版)

ムセキワ・チンゴーザ インタビュー

ムセキワに宿る精霊

質問:まず、生まれた年について伺ってもいいですか?

1970年11月6日に生まれました

質問:ご出身はクムーシャ(田舎)のどこですか?

ムワンガラ村です

質問:あなたのトーテムは何ですか?

モーフです
※エランド(aurotragus oryx)のこと

質問:いつムビラを弾き始めたのですか?

5歳の時、独学で始めました

質問:では、ただムビラの音を聴いて?

その時に何が起こったのか、というと、私のひいおじいさんに気づいたのです
自分の中にひいおじいさんがいると気づいたのです

質問:ああ、なるほど、あなたの中にひいおじいさんの魂が宿っているのですね!

はい、ひいおじいさんが「私はチンゴーザ。ムビラが必要だ」と言ったのです
それで私の両親はムクチャという人から20セントのムビラを買ってくれました

質問:ご両親がムビラを買う時には
ひいおじいさんの魂があなたに宿っていると知っていたのですか?

ええ
私が病にかかった時
叔母と姉が、私を伝統的な治療師のもとへ連れて行ったのです

治療師は悪霊を追い払うため薬草を使おうとしました
ですが使う直前
声が聞こえてきたのです

「私はチンゴーザだ。ムビラが必要なんだ」

治療師は私の叔母と姉──二人とももう亡くなりましたが──に
「この子の言っている意味がわかりますか?」と尋ねました

二人は答えました
「チンゴーザは私たち家族の苗字です
そして、ひいおじいさんのことです」

彼女たちは私を家に連れて帰り
私が何を話したのかを両親に伝えました

祖父──その頃は存命でした──は木皿と伝統的な敷物を用意するように言い
私を敷物の上に座らせると
私の傍に木皿を置き
その上に棒を置きました

祖父は私の前で手を叩きながら(ショナの人々は人に敬意を表す際、その人の前で手を叩く)歌い始めました

「偉大な父よ、ようこそおかえりなさい
私たちはあなたに知ってほしい
私たちのあなたへの愛を
私たちはあなたが今宿るこの少年を、あなたに見守って頂きたい
あなたは偉大だ
私たちはあなたが生きていた頃していたこと
知っていたことをしたい
私たちはあなたのために酒を醸し
お帰りを祝う祭式を催しましょう
あなたの欲するムビラを手に入れましょう」

家族は祭式のため
私に空色の布
〝レッツォ〟(ショナの伝統柄の赤い布)
そしてライオン柄の布を買ってくれました

祭式で参列者がその布を私にかけ
ムビラを演奏するように言いました

その時以来、私たちはひいおじいさんに
「私たちを見守り、お力添えください」
と伝えるため、祭式を行い続けています

無くなったムビラ

質問:なるほど、その出来事があって
ご両親がムクチャさんからムビラを購入してくれたんですね?

はい

質問:あなたが5歳の時に

そうです

質問:ご両親が買ってくださったムビラは今もお持ちなんですか?

「私は無くしたのです!
私は、アメリカで、そのムビラを無くしたのです!」

オレゴンカントリーフェアの時でした
70000人の人々が
そのフェアにはやってきます
そのフェアでは、音楽や、それ以外
いろいろな催しが実施されます

私は、その際
森の中で座っている時に
そのムビラを無くしたのです

私は私のムビラに何が起こったのか分かりませんでした

その後
私のムビラが無くなった事を深く考えました

そして、私は理解しました

私たちは、私のひいおじいさんが使っていたムビラを持っています

ひいおじいさんから受け継いできたムビラ

このムビラは、ひいおじいさんが
戦時中に森の中で見つけたものです

私たちは
このムビラを誰が作ったのかさえ知りません

このムビラは私たちの一族に演奏され続け
私たち一族の元にあります

昔、ひいおじいさんが森の中でムビラを見つけました
そして、私は、自分のムビラをに森で無くしました

どのような事が起こったのかも分からない状況で
ムビラが無くなった
私はお酒を飲んでいたけれども
何かを無くすような
飲み過ぎている、という状態では無かった

ただ
あのムビラに何かが起こって
無くなったのです

それを理解しました

ムビラとの運命

ある日
ジェニファー・カイカー(アメリカ人のムビラ奏者)から
eBayでムビラを見つけた、と連絡がありました

「ムクチャの作った、愛用のムビラを失くしたと聞いたわ
eBayで見つけたわよ!」

私はebayを確認しました
そして
そのムビラを買いました

このムビラは戻ってきたのです!
どこかに行ってしまうことを拒んだのです

私は私のムビラ達を売ることはできない、手放しません

ムセキワの成長を助けた精霊とムビラ奏者たち

質問:5歳から、ムビラを独学で弾き始めたのですよね
身近にムビラを演奏する方がたくさんいらしたのですか?

私の祖父も優れた奏者でした
父も、父の兄弟であるherbert matema(アルバート・マテマ)もムビラ奏者です

私たちはムビラ奏者の一族として知られているんです

質問:おじいさんがチャミヌカ
(ショナが信仰する高位の精霊、1800年代にパシパミレという男に宿り
ンデベレとの戦いを率いた
白人がやって来ることを予言したといわれる)
のために弾くムビラ奏者だったとおっしゃっていましたよね

お父さんはどの精霊のために弾かれるんですか?

父は多くの精霊のために弾きます
ムビラ奏者たちは大抵
神殿で精霊たちのために演奏します

質問:お父さんは
ビリナガレニ(ショナが信仰する高位の精霊、ゾウ氏族の族長を決定する政治的な力も持つ)のために演奏しますか?

はい
父はゴンボエ──古代霊──をその身に宿しています
その精霊はビリナガニレの弟です

質問:おじいさんとお父さんはムビラ奏者で
だからあなたもムビラを聴いて育ったのですね

祖父はいつも
「おまえのムビラの腕前は、私のお父さんの腕前と等しい」と言っていました

私がムビラを弾いている時
ムビラの曲がひとりでに私にやって来ている時
いくらかは
自分でも何を演奏したのか覚えていません

そして、私はよくよく
自分の演奏を聴こうとして
(あぁ~、さっき演奏したあのパートは私は好きだった)
と思います
だけど、その時には
もう、そのパートは私の元には戻って来なくなってしまっている

だけど
演奏している時にちゃんと認識はできていないのですが
私がこの曲を弾いた時には
このパートがあらわれる
というようなパートたちが存在している事を知っています

質問:なるほど、そういったパートがやってくることがあるけれど
自分ではどのパートを奏でているのかわからない
ということがあるんですね

はい、演奏中
手の中にはムビラがあるのに
自分自身も観客の一人になっているのです

そんな時
「何だ?何なんだこれは?」
という気持ちになります

父親に宿る精霊について

質問:ビリナガニレのところには行っていたのですよね?

私の父親に宿る精霊がビリナガニレの弟です
父親がビリナガニレのところに行くときは毎回
私は父親と共に行きました
なぜなら、私はムビラが好きだったからです

そして、私の父親に宿る精霊と
ビリナガニレの話から
たくさんの事を学びました

そして彼らも私の事が好きでした

そこにいた(ビリナガニレの元にいた)
ムクチャや他のムビラ奏者たちを含めて

はじめて、私がビリナガニレのところに行った時
彼らの演奏に参加する事は許されませんでした
彼らが”この者はムビラの演奏方法を知っている”と知るまで
演奏に参加する事は許されないのです

ムビラの演奏方法を知らない限り
演奏に参加する事は許されないのです

なぜなら、彼らには彼らのムビラの演奏スタイルがあります

(彼らと演奏する時)あなたは
いろんな方向に行こうとムビラを演奏してはいけません
この曲では私はここに行く
という事を知って(明確なビジョンを持って)演奏しなければならない

その当時、16人の奏者がいました

そしてその16人と演奏する時には
あなたは、その演奏する曲についてよく知らなければならないのです

演奏に参加する時
あなたは、他の奏者が弾いているパートを弾いてはなりません

それぞれの奏者たちが弾いているパートの中に入り込んで
みんなとは別のパートで、際立つパートを弾かなければならない
そうする事により
全ての人が、あなたが弾いている音を聴き、認識する事が出来ます

はじめて、私がビリナガニレのところに行った時
(ビリナガニレが取り仕切る儀式が行われていた)
彼らムビラ奏者たちが儀式での最初の演奏を終え
最初の休憩に入りました

彼らは、儀式の神殿から外に出て
紅茶を飲んだりタバコを吸ったりしていました

そして、彼らが儀式の神殿に戻った時
私は
(彼らに加わりたい!)
と思いました

私が彼らに加わった時
彼らは、私が誰か知りませんでした

そして、私はムビラの曲に合わせて
ダンスをしたり、手拍子をしたり、歌ったりしました

彼らは、それを気に入りました

「あの小さい男の子は誰だ?
彼がやっている事はすべて
ムビラの音を引き立てている」

そして、私は
神殿の中にある
デゼに入ったムビラを手に取りました

彼らは言いました
「ムビラを弾けるのか?」

私は答えました
「私はムビラを学び中です」

彼らはまた言いました
「本当に、ムビラを弾けるのか?」

私は答えました
「トライしてみたいです」

そして、私は彼らと一緒に演奏しました

そして
彼らは言いました
「この小さな男の子には驚いた
彼は、(ムビラの演奏において)彼が何をしているか理解している」

私のいとこであるムクチャも
もう今では亡くなってしまったが
「いとこよ、あなたはとても若い
しかし、あなたの両手は何か特別な物を持っている」
と言いました

その時に私が演奏したムビラの方法は
コレコレ(トーテムが象の象氏族)のスタイルでした

私がムビラの歴史で知っているところでは
コレコレ一族がムビラの発明者であります

コレコレ一族が
夢のお告げによってムビラを発明しました

彼らはムビラを夢からつくり
そして雨乞いのために使ってきました

コレコレという言葉は雨雲を意味します

今でも彼らは雨乞いの儀式をしています

ビリナガニレ(ビリナガニレが宿る女性)は亡くなりましたが
今は、私の父(父に宿る精霊)が、その雨乞いの儀式の引き受けています

しかし、そこには論議もあります

「なぜ、コレコレの精霊がモーフに宿っているのだ?」
※モーフとはエランド氏族の者の呼び名
ムセキワ・チンゴーザの父親はエランド氏族
父親に宿る精霊は、コレコレ(象氏族)であるビリナガニレの弟なので
象氏族である

しかし、父に宿る精霊は
人々に言いました

「私は、私が生きていた当時
エランドの死肉を食べた
そのため、モーフ(エランド氏族)に宿るようになった」
※動物の死肉を食べる事は禁忌である

また
ビリナガニレが父に宿る精霊とはじめて会った時
「おぉ、弟よ、よくぞ来た」
と歓迎した
というような事もありました

それらの事より
人々はコレコレ(象氏族)の精霊がエランド氏族である私の父親に宿っている
という事を理解しています

質問:あなたの父親に宿る精霊の名前を教えてもらえますか?

ムサニャンゲです

トーテムについて

質問:トーテムについて聞きたいのですが。

人間が創造された頃
人間は、まだトーテムを持っていませんでした
1人目が創造された頃
人間はトーテムを持っていなかったのです

その後、人間はトーテムを授けられました
トーテムは、ただトーテム
というだけのものではなく
人間がトーテムを授けられたのにはいくつかの理由がありました

今では
様々なトーテムが存在しているように見えます
(※トーテムは、中央から南部アフリカに広がる考え方で
それぞれの人は、
ライオンや象、チーター、猿、しまうま、心、牡牛
など、何らかの1つのトーテムを持ち
そのトーテムに属する

ジンバブエでは、父系伝承で子孫に引き継がれていく

同じトーテムの者は家族と考えられており
同じトーテム同士での結婚は認められていない)

もともと、私たちはたくさんのトーテムはもっていませんでした
私たちは少しのトーテムしか持っていなかったのです

しかし、タブーを犯したり、他の事があったりして
例えば戒律を破る者がいた時
一族の間で儀式が行われ
何をその者がしたのかを調べて
そして
その者は一族から離れなければならない
と結論が下されたら
その者は
家族、一族から離れなければならなくなる

そして
「これからは
今までのトーテムを捨て
あなた自身を我々のトーテムではなく
違うもので、あなた自身を呼ばなければならない」
と言い渡されます

そういう事で
トーテムがたくさん存在する事になりました

タブーを犯す者があらわれた事によって
人々の言う事を聞かずに
自分がやりたいようにする者がいた事によって
そのような事が起こりました

ムビラの演奏について

質問:ムビラを弾いている時
どんな風に感じているのですか?
何かを感じているのか、何か考えているのか…

そうですね…遡っています
ムビラを弾いている時
パワーに立ち返るのです
そのパワーを感じます

質問:遡るとは?

ムビラの演奏
例えば「タイレヴァ」という曲を聴くと
そこには学びが多くあります

古くから伝わるもの(昔ながらの演奏法?)を聴き取ることができます

ムビラを学ぶ多くの人は
ムビラを習い
習ったものを演奏し
更に他の人たちに共有してゆきます

しかし彼らが熟練の奏者の音色を聴くと
この人の演奏はちょっと違うなと感じるのです

自分の知っている曲ではある…けれど
この演奏のグルーヴ(高揚感)は
フレーズは
低音の響きは
曲にぴったりマッチしている、と

そしていつの日か
それを再現したいと思うのです

フレーズ1はこうだな、フレーズ2はこうだな、フレーズ3は…何か違う
いい音じゃないな
まあとにかく、練習し続けよう、と

曲に奥深さを持つムビラ奏者に出会った時には
〝これだ〟と感じます

自分にできないからといって嫉妬する気持ちは起こりません

それどころか
気づかないうちに自分たちの精霊が感性を開いてくれるのです

〝この曲には起源がある〟のだと伝えるために
ムビラの曲は
それぞれ他の曲を起源としています

その曲を聴くということは
その曲のお母さんにあたる曲を聴いていること

曲を弾くということは
その曲がやってきたところに立ち戻るということなんです

質問:ルーツに立ち返る、ということですね

そうです
なぜならムビラの曲は他の曲からやってきているからです

その母親である曲から
家族である曲からやってきている

曲たちは多くを共有しているんです

曲も人間であり
日常生活を営んでいるのです

日本の人へのメッセージ

質問:日本では、ムビラを習う人たちがたくさんいます
彼らはムビラを上手くなりたい
と願っています

ムビラを上手くなるためにアドバイスはありますか?

深く学んでいく事
曲には段階
というものがあります

初級
初級上
中級
上級
最上級

教える時は
簡単な基礎から教えなければなければなりません

そして
だんだん深いところを教えていく

あなたが曲を得たら
その曲は
たくさんのものを含んでいます

たくさんの曲を習う代わりに
習った全ての曲を
深く掘り下げていく
そのことはとても大切な事です

そして
他にはどんなものがこの曲に含まれているのか?
と、もっと研究していきます

それが大切です

訳者紹介

石井 明日香

三重県熊野生まれ、東京育ち
沖縄に3年、カナダ、イギリスにそれぞれ約半年暮らす。
現在は東京を拠点に絵を描き生きる。
旅して歩いて出会ったものたち、そこで感じる気配を形に。

【受賞】
「第18回岡本太郎現代芸術賞」入選
「アフタヌーン四季賞 2014年冬のコンテスト」準入選
「アフタヌーン四季賞 2015年冬のコンテスト」四季賞

【出版】
『ひさかたのおと』(全2巻/講談社アフタヌーンKC)(フランス〈PIKA社〉、スペイン〈Milky Way Ediciones〉、韓国〈素美メディア〉にて翻訳出版)

読切作品
「天から来た」(白泉社『ヤングアニマルZERO』2020年5月掲載)
「昼と夜との境界に」(白泉社『ヤングアニマルZERO』2022年1月掲載)
「帰馬放牛」(COAMIX『コミックゼノン』2022年4月掲載)

ENJOY MBIRA!

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